作者の意図について
注意!ここではゲーム内容の詳細についてお話しています。
目次
あのようなストーリーにした意図
「家」⇒「地域」⇒「学校」の順でステップ
スモールステップの取り組み方は様々です。 The Selective Mutism Treatment Guide という本では、 最初に家でステップを踏むことから始める必要性が強調されています。 ですが、特別な部屋を中心に行なわれる場合もあれば、教室や模擬教室を中心に行なわれる場合もあるようで、実のところ様々のようです。
今回のゲームでは、「家」⇒「地域」⇒「学校」と、場所についてもステップを踏んでいく展開にしました。 場所が変わっていく方が、ゲームとしては変化が生まれて面白そうでしょう。 もちろんゲーム性だけの理由ではなく、場所のステップアップについては、国内外、特に日本の緘黙の本でよく示されている方法だからというのもあります。
不安をモンスターにして「外在化」
緘黙RPGでは、緘黙児の不安がモンスター化し、緘黙児らと戦闘になります。 これは、不安への対処法として知られる「外在化」というものを意識しています。 例えば、不安を魔物や虫に例えたり、考えていることを紙に書いたりして、不安を自分自身から切り離して認識するとよいそうです。
↓ その動画です。Internet Explorer の方は、画像にマウスカーソル(マウスポインタ)を合わせると再生できるようになるかも。
※ 上の動画の素材について。公園の音楽を、都合により差し替えています。 また、次の素材を使用しています。 WOLF RPGエディターとその同梱素材、コロラル様(公園の音楽)、GD様(不安Lv5)、 ぴぽや様 http://piposozai.blog76.fc2.com/(戦闘背景)、 ユーフルカ様(戦闘音楽)http://wingless-seraph.net/
途中から、スモールステップの踏み方を自分で決めるよう指示される
ある程度ステップを踏むと、ぶにゅう先生から、スモールステップの踏み方を親のサポートのもと自分で決めるよう指示されます。
これはぶにゅう先生の台詞にあるように、 小学校中学年ぐらいになると自ら主導権を握ってステップを踏む必要があるとされていることを反映させたのですが、 実は、それだけでもありません。
参考文献の一つとして挙げている Bergman (2013) のマニュアルでは、 主導権を徐々に治療専門家から親や教師に移すこととされています。 また、日本では親や教師が主体となり、DIY のようなかたちでスモールステップの取り組みが行なわれている現状があるようです。 こうしたことも意識しました。
スモールステップの取り組み方法を示した本は国内外に多数ありますが、 誰が主導して行なうかは、書いてある本によってまちまちで、私にもよく分かりません。 ゲームではこのようにしましたが、これでよかったのか、迷いもあります。
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「勇気」について
海外で行なわれている緘黙児へのスモールステップの取り組みでは、勇敢さを強調したものが見られます。 例えば、米国で広まる緘黙児への集中プログラムの元祖の名称は brave buddies で (「勇敢な仲間たち」のような意味)、ここでは緘黙児の発話を brave talking と呼んでいます。 また、オランダやフランスには緘黙児へのパソコンゲームがあって、 治療場面でも活用されているのですが、このゲームのテーマは、「勇敢であれ」「話すことを恐れてはいけない」です。
勇敢さといえば、RPGの世界では、よく「勇者」という職業(?)が出てきます。 そこで、このゲームでも主人公の緘黙児を「勇者」にしてみることにしました。 ただ、私としては、まだ何のステップも踏んでいない主人公をいきなり「勇者」としても説得力がないような気がしましたし、 精神論的なものをあまり強調したくもなかったので、あのような扱いにしました。
なお、念を押しておきますが、緘黙がある人は、勇気がない人ではありません。 勇気を出しても、そう声が出ないのが緘黙です。
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◇ 緘黙児に「君は勇敢だ!」(行動療法) (新しいウィンドウで開く)
↓ 今度は動画ではありません。
没にした案
主人公「私/僕に生きてる価値なんて、あるのかな」
当初、このモノローグを最序盤に入れようと考えていました。 緘黙のある人が持ちがちと思われる自己肯定感の低さや、苦悩の深さを表現したかったのです。 私自身、学校で話せなかった頃は、このようなことは日常的に考えていました。
ですが、これはちょっと重すぎますし、 緘黙の人を否定しているともとられかねないので、没にしました。
登場人物について
主人公
主人公は緘黙児です。 呪文を唱えるクラスは難しいと思い、戦士系のキャラにすることにしました。
ですが、今にして思うと、敢えて魔法使い系のキャラにしてみてもよかったかもしれません。 魔法使いなのに呪文が唱えられない、けれども経験値を積み重ねると、少しずつ唱えられるようになると。
洋子(主人公の母親)
このゲームでは、主人公が小学4年生という設定です。 このため、緘黙児と母親の関係よりも、緘黙児と同級生の関係を重視して描いています。
おまけに、小4視点のストーリーということで、 母親は怒りっぽく、時々子どもに理不尽なことを言うキャラにしてしまいました。 これには、心優しいみかさとの差別化を図る狙いもありました。 このゲームをプレイしたお母様方がいらっしゃったら、ごめんなさい。
みかさ(主人公の唯一の友達)
私が学校で話せなかった頃、私によくしてくれた同級生たちがいました。 その同級生たちをモデルに作ったキャラが、このみかさです。
ただし、「こんな友達がいたら学校生活過ごしやすかったろうなあ」という作者の思いによる、創作も大分加わっています。 実際、ここまでのことをしてくれる子はそういないだろうと思います。
ぶにゅう先生(専門家)
キャラグラフィックは「WOLF RPGエディター」サンプルゲームのものを流用。 後で気付いたのですが、このキャラグラフィックは、もともと女性としてデザインされたようです。 それなのに、私は男性キャラにしてしまいました。中性的な人物ということにしておきます。
栞(主人公と同い年の緘黙児)
作者としては、栞には思いのほか助けられました。 主人公はモノローグが多いせいか、それともあちこち動き回るせいか、 どうしても緘黙児らしく描くことができませんでした。 緘黙のゲームなのに、画面に緘黙らしい人が登場しないのは変です。 ですが、栞についてはそれなりに緘黙児らしく描くことができ、その問題点を少しカバーできました。
栞と主人公の出会いは、緘黙の親子イベントでした。 現実世界でも親子で参加する緘黙のイベントが存在し、 緘黙の子どもたちが親と一緒に集まるという、少し前までは考えられなかったことが行なわれています。 そうした場で、子どもたちの間では、どのようなことが起こっているのでしょうか?
ブラックサタン
緘黙のことを思いっきり誤解している人。
緘黙に無理解な人を悪者にする目的で作ったキャラではありません。 また、そのような人を揶揄する目的で作ったキャラでもありません。 誰だって自分に関心の薄いことについては知らないものですし、 誤解をすることもあるでしょう。
ただ、ゲームの演出上、悪役っぽい扱いにしてしまったのは違いありません。 フォローは入れたつもりですが……。