場面緘黙症の出現率は、調査によってまちまちなのですが、1%以下の報告が多いです。 どの報告にもほぼ共通するのは、男児よりも女児に多いということです。
日本でおそらく約20年ぶりとなる大規模な緘黙の出現率調査が、2015年に行なわれたそうです(梶ら, 2015)。 これは、神戸市の公立小学校に在籍する全児童77,038人を対象としたものです。 出現率は0.15%でした。
学年別に見ると、1年16人(0.13%)、2年18人(0.14%)、3年18人(0.14%)、 4年22人(0.17%)、5年21人(0.16%)、6年21人(0.16%)です。
この調査報告については、申し訳ございませんが原文を確認していません。 久田ら(2016)からの再引用です。
緘黙は200人に1人ぐらいの割合で存在するという情報を目にすることがあります。
ただ、少なくとも私が調べたところ、この情報については一次情報がはっきりしません。 この件については、ブログで検討しています。
↓ 場面緘黙症Journalブログへのリンクです。
厚生労働省が全国の18歳未満の児童のいる世帯を抽出して行った「全国家庭児童調査」によると、 1994年の調査で17人(0.4%)、1989年で0.2%の割合で緘黙が確認されています。(厚生労働省, 2001)
これを細かく見ると、1994年の調査では、 未就学3人(0.2%)、小学校1〜3年3人(0.4%)、小学校4〜6年5人(0.6%)、中学校3人(0.3%)、高校等3人(0.4%)です。 また、1989年の調査では、未就学0.0%、小学校1〜3年0.2%、小学校4〜6年0.1%、 中学校0.2%、高校等0.4%です。
静岡市の幼稚園・保育園・保育施設対象を対象にしたアンケート調査による数字です(長谷川, 金田, 1996)。 計128園のうち、回答が得られた97園において13園、計16人の緘黙児が認められました。 静岡市の出現率は0.1%となるそうです。
北海道の上川管内における公立小中学校(特殊学級は除く)を対象としたアンケート調査の数字です(村本, 1983)。 生徒指導担当者、緘黙児の学級担任者にアンケートを行っています。 小学校167校(84.3%)、中学校68校(81.9%)の合計235校(83.6%)から回答を得ました。 より細かく見ると、小学生0.027%(43,713人中12人)、中学生0.041%(22,026人中9人)です。
日本で著名な『場面緘黙児の心理と指導』では、1959〜1980年までの研究が総括され、 緘黙の発生率は「子ども1000人に対して2、3人の割合で存在」と推定されています(河井, 1994)。
2011年に発表された、ニューヨーク州ストーニーブルック周辺の調査です(Bufferd et al., 2011)。 就学前児童を持つ親を対象とした調査であり、親の報告に基づくものです。 541人中、8人が DSM-IV による緘黙の診断基準に当てはまったそうです。 また、95%信頼区間は、0.5-2.5%とあります。
2002年に発表された、ロサンゼルスの幼稚園〜小学1、2年生の教師を対象とした調査です(Bergman et al., 2002)。 英語を流暢に話し、DSM-IV の選択性緘黙の診断基準に当てはまる児童について尋ねたところ、 133人中125人が回答しました。 0.71%(2,256人中16人)の児童が該当しました。
スウェーデンの大学の研究グループによるものです(Kopp 1997)。 イェーテボリの二つの学区に通う7-15歳の子どもを抽出し(スウェーデンでは7歳から学校が始まります)、 緘黙に関する質問票を教師に配布、記入を依頼したところ、3,088人の子どものうち、90.4%の2,793人について回答を得ることができました。 さらに、緘黙と関連する可能性のある報告について、校長と接触して詳細を尋ねました。 DSM-IV の診断基準に当てはまった子どもは5人でした。
10,000万人に18人と、低出現率ですが、 それでも「場面緘黙症は、以前の研究で示されたものよりも、よりよくあるものであった」 (Selective mutism was more common than suggested by earlier studies.) と要約で結論づけられています。 以前の研究では、もっと低確率と考えられていたのでしょうか?
2003年に発表された、東イスラエルの全ての義務教育と、義務教育前の未就学児童を対象とした学校の調査です(Elizur & Perednik 2003)。 電話インタビューにより、8,475人(うち移民の子1,441人)の未就学児のうち、64人(うち移民の子31人)が確認されたそうです。 全体で0.76%、移民に限ると2.2%でした。
行動療法による場面緘黙症の治療法を紹介した『場面緘黙児への支援』は、2%以上という説を紹介しています。
1%以下の低い率を報告する研究が多い中、目を引きますが、その出典は、おそらくフィンランドの小学2年生を対象にした調査ではないかと思います(Kumpulainen et al., 1998)。 この研究に限っては、申し訳ないのですが、概要しか読んだことがないのですが、 その調査方法は、DSM-IIIR の診断基準を研究対象地域の全ての小学2年生教師に送付し、 該当する児童がいた場合、さらに質問票に回答するよう依頼するというものだったそうです。
(02/02/2017)