原因は?

場面緘黙症の原因ですが、はっきり分かっていません。ただ、様々な要因が絡んでいると考えられているようです(Dow ら, 1995; Cohan ら, 2006; Viana ら, 2009)。

三つの要因

緘黙の研究が盛んな英語圏では、緘黙の様々な要因を

○ 素因(緘黙になりやすいリスク要因)
○ 発現要因(引き金)
○ 持続要因、悪化要因

の三つに分けた説明がなされることがあります(Carmody, 1999; Cline and Baldwin, 2004)。

今回はそのうち、Carmody factors とも呼ばれる緘黙の諸要因をメインに取り上げます(Carmody, 1999)。 これは、英国で緘黙支援のバイブルともされる The Selective Mutism Resource Manual でも引用されています(Johnson and Wintgens, 2001 ※これは初版です。現在は第2版が出ており、内容が多少改められています)。

※ 様々な要因が挙げられていますが、そのうちどれが該当するかは、その子・人によって違います。 また、繰り返しますが、緘黙の原因ははっきり分かっていません。これはあくまで一つの説です。

素因(緘黙になりやすいリスク要因)

○ ことばの問題がその子にある
○ 不安、慎重さ、過敏がその子にある
○ 内気や緘黙だった人が家族にいる
○ 他の精神疾患(特に不安)にかかったことがある人が家族にいる

発現要因(引き金)

○ 家族分離、重要な他者の喪失、トラウマ
○ 頻繁な移住
○ 保育園、幼稚園への入園や、学校への入学
○ 自分がことばに問題を抱えていることの自覚
○ からかいなど、他者からの否定的な反応

持続要因、悪化要因

○ 緘黙児・者に、関心や愛情がより向けられることによる、緘黙の強化
○ 緘黙児・者に、適切な介入やマネジメントが行なわれていない
○ 緘黙を過剰に受け入れている
○ 緘黙児・者が、言いたいことをうまく非言語的に伝える能力を発達させている
○ 地理的、社会的な孤立
○ 家族が民族、言語的なマイノリティに属している
○ 家族内に、コミュニケーションに悪い影響をもたらすモデルがいる

雫が連なるミルクドロップ

私なりのコメント

「家族分離、重要な他者の喪失、トラウマ」は、主な要因として支持されていない

まず、発現要因の一つに「家族分離、重要な他者の喪失、トラウマ」がありますが、これは緘黙の主な要因として挙げられることはあまりありません。 科学的な根拠が乏しいのではないかと思います。

特にトラウマが緘黙の原因であるとする見方は「神話」であるとして、そうした誤解を解こうとする動きが以前からあります(Dummit, n.d.; Stanley, n.d.; Myths About Selective Mutism, n.d.)。 トラウマと言うと、私たちはちょっとした苦い経験でも簡単に「あれはトラウマだ」などと言ったりしますが、 緘黙の原因がトラウマだとかそうでないという場合、虐待やネグレクトと並んで論じられるような類の話であることが多く、注意が必要です。

緘黙を他者が受け入れるということ

それから、持続要因、悪化要因に挙げられている

○ 「緘黙児・者に、関心や愛情がより向けられることによる、緘黙の強化」
↑ 緘黙でいることで得をしてしまい(疾病利得)、緘黙が強化されるということか。
○ 「緘黙を過剰に受け入れている」
↑ 本人が緘黙を過剰に受け入れているということか、他者が緘黙を過剰に受け入れているということか、両方か。
○ 「緘黙児・者が、言いたいことをうまく非言語的に伝える能力を発達させている」

ですが、このあたりは難しいところです。 緘黙に関心が向けられず放置されてはいけませんし、緘黙児・者に愛情を持って接することが悪いはずがありません。 また、他者が緘黙を受け入れたり、非言語コミュニケーションを認めることは、 緘黙支援では必要な場面もあるでしょう。 ですが、それが行き過ぎると、緘黙を持続、悪化させることもあるということではないかと私は解釈しています。

どちらにも分類できる要因もある

あと、

○ 「地理的、社会的な孤立」
○ 「家族が民族、言語的なマイノリティに属している」
○ 「家族内に、コミュニケーションに悪い影響をもたらすモデルがいる」

は持続要因、悪化要因に挙げられていますが、Cline らはこれらを素因(緘黙になりやすいリスク要因)に分類しています(Cline ら, 2004)。 どちらにも分類できそうです。