「緘黙」は、何でも病気にする最近の風潮?

最近は何でも心の病気にする風潮があり、 場面緘黙症もそうした風潮の中で生まれた新しい「病気」ではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。

また、最近緘黙の啓発活動が盛んなのは、医師や製薬会社の陰謀ではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。

そうではないことを、ここでお話ししたいと思います。

場面緘黙症の概念の歴史は浅くない、自閉症より古い

まず、「場面緘黙症」の概念の歴史は、決して浅くありません。

1934年に Moritz Tramer が "Elektiver Mutismus" として記述し(Tramer, 1934)、 この30年代に初期的な独国の諸研究が出ています(一谷ら、1973)。 50年代には英国、50年代後期からは米国から研究が現れました(一谷ら、1973)。

我が国においても、59年におそらく日本初の緘黙研究である 高木四郎の「口をきかない子供」が発表され、今日にまで至っています(高木、1959)。

なお、「口をきかない子供」では既に「緘黙児」という用語が見えます(高木、1959、332ページ。

家庭では口をきいているのに、学校や人前では口をきかない子供というものは意外に多いものである。 筆者は最近三ヵ所の小学校で、児童の呈する精神衛生上の問題について調査を行ったが、緘黙児、即ち口をきかない子供の数は第一表の如くであった。

※ 旧仮名遣いと旧字体は現代風に変えています。

なお、 自閉症は、1943年に Leo Kanner により報告されたのが最初です(Kanner, 1943)。 「場面緘黙症」の概念の歴史は、自閉症のそれよりも古いことになります。

緘黙を最近作られた新しい病気と誤解する方が時々いらっしゃいますが、 このようにそうではなく、あまり知られていないだけです。

緘黙の啓発活動は、経験者や当事者、保護者が中心となって行われてきた

また、この種の新しい(と思われる)心の問題には、「医師が金儲けのために次々に新しい病気をでっち上げている」とか 「製薬会社の陰謀」という見方をする方がいらっしゃいます。

まず、そもそも「場面緘黙症」は新しい概念ではないことは、先ほどお話しした通りです。

最近行われている啓発活動にしても、医師や製薬会社ではなく、 緘黙の経験者や当事者、保護者らが中心となって行われてきたものです。 「やっぱり精神科医は場面緘黙症を知らない」(弥生桜、2005)など、専門家の間でさえ必ずしも緘黙が理解されていないという現状認識から、 経験者や当事者、保護者らを中心に支援団体が設立され、啓発活動が始められました。 啓発活動の中心を担うかんもくネットとかんもくの会の会員は、保護者や(元)当事者が多数を占めます (かんもくネット、2013;かんもくの会、2013)。